お客様の名前、商談中に呼んでいますか?

今日、部下に伝えたい営業ノウハウ

営業に心理学をちょっと取り入れてみると、面白いことがあるかもしれません。

今回のテーマは、とても簡単。「お客様の名前を呼ぶ」です。名刺交換では「田中さん、本日はよろしくお願いします」と名前を呼んだのに、その後の商談では名前を呼ばずに終わっていた。そんなことは意外とあるものです。もちろん、名前を呼ばなかったから商談がうまくいかない、という話ではありません。でも心理学の研究を少し覚いてみると、「名前」というものは私たちが思っている以上に面白い存在のようです。

■自分の名前は、なぜか耳に入ってくる

居酒屋やパーティーなど、周りでたくさんの人が話している場所。隣のテーブルの会話なんて聞いていなかったのに、「田中さんがさ……」と自分の名前が聞こえた瞬間、「ん?」と思わず反応してしまう。そんな経験はないでしょうか。こうした現象を説明するときによく登場するのが、「カクテルパーティー効果」です。人間は、周囲にあるすべての情報を同じように受け取っているわけではなく、自分に関係する情報などに選択的に注意を向けることがあります。そして、自分の名前はその代表格。脳活動を調べた研究でも、自分の名前は他人の名前とは異なる反応を引き起こすことが報告されています。考えてみれば、「田中」という言葉は、営業にとってはお客様の名字です。でも田中さん本人にとっては、何十年も自分自身と結びついてきた言葉。同じ「田中」でも、受け取る側にとっての意味はまったく違うわけです。

■だったら、営業でも使ってみたら?

ここからは、ちょっとした実験です。いつもの「こちらについて、どう思われますか?」を、「田中さん、こちらについてどう思われますか?」にしてみる。それだけです。名前を呼ばれることで、「自分に話しかけられている」という感覚が少し強くなるかもしれません。あるいは、「自分のことをちゃんと覚えてくれている」という小さな親しみにつながるかもしれません。もちろん、「名前を呼べば親近感が○%上がります」なんていう単純な話ではありません。でも、人間にとって自分の名前が特別な情報なのであれば、営業のコミュニケーションに少し取り入れてみる価値はありそうです。

■売れている営業はどうしている?

ここで周りの営業をちょっと観察してみるのも面白そうです。お客様との距離を縮めるのが上手な人は、「田中さん、それ面白いですね」「田中さんはどう思います?」「今日はありがとうございました、田中さん」と、自然に名前を使っていないでしょうか。本人は心理学を意識しているわけではないと思います。ただ、自然にやっている。もしそうだとしたら、「売れている人が自然にやっていることを、心理学から見てみる」というのも面白いかもしれません。

■ただし、やりすぎ注意

「田中さん、ありがとうございます」「田中さん、ちなみに」「田中さん、こちらですが」「田中さん、どうでしょう?」これはさすがに不自然です。名前を呼べば呼ぶほどいい、という話ではありません。営業テクニックとして使っている感じが出てしまったら、むしろ逆効果かもしれません。あくまで自然に。一度の商談で一回でも、「あ、そういえば名前を呼んでみよう」くらいで十分だと思います。

■今日の営業雑談

営業会議や同僚との雑談で、「そういえば、お客様の名前って商談中に呼んでる?」と聞いてみると、ちょっと面白いかもしれません。意外と、「名刺交換のときだけかも」という人がいるかもしれません。だったら次の商談で、ちょっと試してみる。それくらいでいいと思います。心理学を学んだからといって、急に営業がうまくなるわけではありません。でも、「人って、こういうところがあるんだ」と知っていると、普段の営業のちょっとした行動を変えるヒントになることがあります。心理学を、営業にほんの少し。意外と面白い発見があるかもしれません。

■ちょっとしたウンチク|「選択的聴取」はどう調べた?

カクテルパーティー効果の研究でよく知られる認知心理学者コリン・チェリーは、1950年代に「両耳分離聴」と呼ばれる方法などを使って、人が複数の音声の中から特定の会話にどう注意を向けるのかを調べました。左右の耳に別々の音声を流し、一方の音声だけに注意を向けてもらう。すると、人は注意を向けた側の内容は追える一方で、もう一方の内容については十分に認識できないことがありました。つまり私たちは、耳に入ってきた情報をすべて同じように処理しているわけではない、ということです。その一方で、自分の名前のように自分自身と強く結びついた情報は注意を引きやすいことが、その後の研究でも検討されています。「人は何を聞いたか」だけでなく、「何に注意を向けたか」で受け取り方が変わる。営業の会話を考えるうえでも、ちょっと面白い視点ではないでしょうか。

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