「一番売れている営業のやり方を、みんなで共有しよう」
営業会議や研修で、こんな取り組みをしている会社は多いと思います。トップ営業が使っている提案資料を共有する。成功した商談について説明してもらう。商談に同行して、話し方や進め方を見てもらう。どれも間違った取り組みではありません。ところが、同じ資料を使い、同じような営業トークをしても、なかなか同じようには売れません。そして最後には、「やっぱり、あの人だから売れるんだよね」という話になってしまいます。では、本当にトップ営業のやり方は、他の人には真似できないのでしょうか。
■問題:見えている「やり方」だけを共有している
トップ営業の商談を見ると、いろいろなことを学べます。どんな資料を使うのか。どんな順番で説明するのか。どんな質問をするのか。しかし、これらはすべて外から見える「行動」です。
たとえば、お客様から、「もう少し安くなりませんか?」と言われたとします。ある営業担当者はすぐに値引きの話をするかもしれません。一方、トップ営業は、「ちなみに、どのあたりで高いと感じられましたか?」と聞くかもしれません。この場面だけを見て、「価格が高いと言われたらまず質問する」とチームに共有しても、同じ成果にはなかなかつながりません。本当に重要なのは「質問したこと」だけではないからです。
■原因:トップ営業自身も「なぜ売れるのか」を説明できない
トップ営業はお客様の「高い」という一言から、予算が足りないのか、他社と比較しているのか、価値を伝えられていないのか、単に確認しているだけなのか、いくつかの可能性を考えています。だからすぐに値引きの話をせず、まず質問して確かめようとします。
では、本人に「なぜ、その質問をしたの?」と聞けばいいのでしょうか。実際にはそう簡単ではありません。「なんとなく、このお客様には聞いた方がいいと思った」「いつもそうしているから」「話していればなんとなく分かる」、そんな答えになることがあります。これはノウハウを隠しているわけではありません。自然にできるようになっているからこそ、自分でもうまく説明できないのです。
たとえば、長年車を運転している人は、交差点を曲がるたびに一つひとつ考えているわけではなく、自然に対応しています。営業もよく似ています。経験を積んだ営業は、お客様の言葉や表情、質問への反応などから自然に対応できるようになります。本人にとってはすでに「当たり前」になっているのです。そのため、「どうして売れるんですか?」と聞いても、「お客様の話をよく聞いているだけです」「相手に合わせて提案しています」といった答えになりがちです。間違った答えではありません。ただ、それを聞いた他の営業担当者は「では具体的に何をすればいいのか」が分かりません。ここに、トップ営業のやり方を共有してもチーム全員が売れるようにならない理由があります。
■今日からできる対策:「教えてもらう」のではなく、一緒に商談を振り返る
ポイントは、トップ営業本人に「あなたはなぜ売れるの?」と答えを求めないことです。代わりに実際の商談を一つ取り上げて、一緒に振り返ります。「お客様が高いと言ったときどうした?」「その前に何と言っていた?」「すぐに値引きの話をしなかったのはなぜ?」と、実際に起きたことを順番にたどっていきます。すると「そういえば、その前に競合の商品について聞かれていたから価格を比較していると思った」といった話が出てくることがあります。
ここが大切です。トップ営業本人に「営業ノウハウを教えて」と聞くのではなく、実際に起きたことを一緒にたどりながら、「そのとき何を見ていたのか」「何を考えたのか」「だから何をしたのか」を一つずつ見つけていくのです。
そして、ここで終わらせないことも重要です。見つかったポイントは、簡単なメモでもいいので残しておきます。たとえば「価格が高いと言われたら、すぐ値引きせず、まず何と比較して高いと感じているのか確認する」と残しておけば、次の営業会議でも共有できますし、新人教育やオンボーディングの資料にも加えられます。
受注した商談を一つ振り返る。うまくいった提案を一つ振り返る。難しいお客様に対応できた場面を一つ振り返る。そこで見つけたことを残し、チームで使う。この積み重ねによって、一人の経験が少しずつ会社のものになっていきます。
■今日の気づき:トップ営業が「教えられない」のには理由がある
「あの人は売れるけれど人に教えるのが苦手だ」そんなトップ営業は決して珍しくありません。でも、本人の教え方だけが問題とは限りません。長年の経験によって自然にできるようになったことを、自分自身で分解して人に分かるように説明するのは難しいものです。だから会社がやるべきなのは、「トップ営業に教えてもらうこと」だけではありません。トップ営業が自然にやっていることを一緒に見つけ、それを残し、他の営業担当者も使えるようにしていくことです。
トップ営業と同じ話し方をする必要はありません。同じキャラクターになる必要もありません。大切なのは、売れている人が「どんな場面で何に気づき、どう対応しているのか」をチームで共有できるようにすることです。一人の「売れる」を、チームの「売れる」に変えていく。
まずは次の営業会議で、成功した商談を一つ取り上げて、一緒に振り返るところから始めてみてください。

