なぜリクルートは、「売れた営業」を表彰するだけで終わらせないのか?

勝ちパターン企業研究

「今月のトップ営業は○○さんです」 営業会社では、珍しくない光景です。売上1位を表彰したり、大きな受注をした営業担当者を称えたり。でも、リクルートの取り組みを見ていると、少し違ったところに目を向けていることがわかります。注目しているのは「誰が一番売ったのか」だけではありません。「その人は、なぜうまくいったのか」そこまで組織の中で共有しようとしているのです。

■営業の成功には、表から見えない部分がある

例えば、ある営業担当者が大口顧客を受注したとします。結果だけを見れば「○○さんが大型案件を受注した」という話です。でも、その裏側にはいろいろな出来事があります。最初はどんな課題を想定していたのか。お客様との会話で何に気づいたのか。途中で提案を変えたのか。何がうまくいかなかったのか。最後に何が決め手になったのか。むしろ、こちらの方が他の営業担当者には興味深い話かもしれません。リクルートには、こうした「成果に至るまでのプロセス」を組織で共有する仕組みがあります。

■2008年に始まった「TOP GUN AWARD」

その代表例が「TOP GUN AWARD」です。2008年に営業職を対象として始まり、担当する事業を越えて、優れた取り組みをプレゼンテーション形式で共有する場として運営されてきました。その後、対象は営業以外にも広がり、2015年からは「FORUM」へと発展しています。面白いのは、単なる成績優秀者の表彰ではないところです。共有されるのは成果だけではありません。課題をどう設定したのか。どんな打ち手を考えたのか。途中でどんな失敗や苦労があったのか。そして、どう成果につながったのか。リクルートは、こうした一連の「ストーリー」をナレッジとして共有してきたと説明しています。

■「成功したこと」と「成功した理由」は違う

これは営業を考えると、なかなか面白い違いです。「お客様の課題をしっかりヒアリングしたので受注できました」という成功事例があったとします。ヒアリングしたので受注できました」という成功事例があったとします。なるほど、と思います。でも、もう少し知りたくなります。何を聞いたら、お客様の本当の課題が出てきたのか。最初からその課題に気づいていたのか。どこで「この提案ではないな」と気づいたのか。競合ではなく、自社を選んでもらえたきっかけは何だったのか。ここまで見えてくると、「○○さんの成功談」だったものが、「自分の商談でも使えるかもしれない話」に変わってきます。リクルートが共有している「プロセス」や「ストーリー」には、そんな意味がありそうです。

■一人の経験が、別の人の仕事につながっていく

さらに興味深いのは、共有して終わりではないことです。リクルートでは、選ばれたベストプラクティスを発表し、イントラネット上の動画などを通じて社員が見られる仕組みもつくられてきました。そして、実際に社内で共有された事例を別の社員が自分の仕事に応用したケースも紹介されています。ある人が現場で工夫する。うまくいく。その過程を言葉にする。別の人がそれを知る。自分の仕事に取り入れてみる。そこで、また新しい工夫が生まれる。こうして見ると、表彰制度というより、「社員が仕事の中で見つけた知恵を、社内で循環させる仕組み」と考えた方が近いのかもしれません。

■営業ノウハウは、意外と会社に残らない

営業の面白い工夫は、会議室より現場で生まれることがあります。「この質問をしたら、お客様が本音を話してくれた」「最初にこの資料を見せたら、話が早かった」「この業界では、この説明の方が反応が良かった」一つひとつは、小さな発見です。しかも本人にとっては当たり前になっているので、わざわざ誰かに話さないこともあります。そのままなら、その発見は本人の中に残ります。異動すれば別の部署へ行く。退職すれば会社からなくなる。別の営業担当者は、また自分で同じことを経験しながら見つけることになります。リクルートの事例が興味深いのは、こうした日々の仕事から生まれた知恵にスポットライトを当てているところです。

■「成功事例を共有してください」だけではなかった

ここに、この事例の仕組みとしての面白さがあります。会社が「成功事例があったら、みんなで共有しましょう」と言うだけなら、それほど珍しくありません。リクルートはそこに、優れた取り組みを見つける。そのプロセスを振り返る。本人が言葉にする。発表する場をつくる。他の社員が見られるようにする。という一連の流れをつくりました。つまり、成功事例の共有を「社員の善意」に任せるだけではなく、「共有される場所」を会社側につくった。ここが面白いところです。

■なぜ、同じような仕組みは簡単に定着しないのか

成功事例の共有会や社内表彰そのものは、他の会社でも珍しいものではありません。それでも、同じような仕組みが長く続き、組織の文化として根づくかどうかは別の話です。単発のイベントなら、企画して一度開催することはできます。ただ、毎年続ける。事業や職種を越えて事例を集める。成果だけでなく、そのプロセスまで言語化する。選ばれた事例を、他の社員が後から見られるようにする。そこまで一連の仕組みとして回し続けるには、運営する側の手間もかかります。リクルートの場合は、2008年に始まった取り組みが、その後対象を広げながら「FORUM」へと発展してきました。つまり、単に「成功事例共有会をやった」ことよりも、「成功事例を見つけ、言葉にし、共有し続ける場を、長く運営してきたこと」の方が、この事例では重要なのかもしれません。真似しやすいのはイベントの形です。真似しにくいのは、それを一過性の企画で終わらせず、現場の知恵が集まり続ける仕組みとして定着させること。そこに、リクルートらしさがありそうです。

■会社の中には、まだ知られていない「売れるヒント」がある?

リクルートの事例を見ていると、少し見方が変わります。営業ノウハウというと、研修を受けたり、本を読んだり、外部の専門家から教えてもらったりするものを想像します。もちろん、それも一つの方法です。でも、すでに会社の中にあるかもしれません。ある営業担当者が先週の商談で気づいたこと。別の営業担当者がずっと自然にやっていること。ある支店だけ受注率が高い理由。クレーム対応から偶然生まれた説明方法。そうした小さな成功が、本人の経験のままで終わっているだけなのかもしれません。リクルートがやってきたことは、それを見つけ、言葉にし、他の人が知ることのできる場所をつくることでした。

■リクルートの勝ちパターンは何だったのか

この事例を「営業コンテストを開催した会社」と捉えると、本質を見落としてしまいそうです。仕組みとして新しかったのは「現場で生まれた成功のプロセスを言葉にして、他の社員が参考にできる知恵として組織に流通させる場所をつくったこと」。一人の営業担当者が見つけたものを、一人だけの経験で終わらせない。個人の経験が共有される。誰かがそれを参考にする。そこから、また別の成功が生まれる。そんな循環が組織の中でできていく。リクルートが「営業が強い会社」と言われる背景には、優秀な人材が集まっていることだけでなく、こうした「個人の知恵を会社の知恵に変える仕組み」も関係しているのかもしれません。そして、自分の会社を少し眺めてみると、「実は、うちの営業にも面白いことをやっている人がいるんじゃないか?」そんな見方ができる事例でもあります。

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