「どちらがいいですか?」で、なぜ会話が進むのか?

今日、部下に伝えたい営業ノウハウ

商談の終わりに、「一度、詳しい資料をお送りしましょうか?」と聞いたら、「そうですね。必要になったらお願いします」と返ってきた。そのまま会話も終了。営業をしていると、そんな場面があります。

では、少しだけ聞き方を変えてみます。

「まず資料をご覧いただくのと、一度オンラインで説明を聞くのと、どちらがよさそうですか?」

すると、「そうですね、まず資料を見たいです」と答えが返ってくるかもしれません。

聞いている内容はそれほど変わりません。でも、相手が頭の中で考えていることは少し違います。最初の質問で考えるのは「必要か、必要ではないか」。二つ目の質問で考えるのは「AとBなら、自分にはどちらが合っているか」です。

なぜ、こんな違いが生まれるのでしょうか。心理学や行動科学から考えてみると、普段何気なく使っている「質問」にもちょっとした工夫がありそうです。

## 「どうしますか?」は、意外と考えることが多い

「今後どうされますか?」

聞く側にとっては簡単な質問ですが、答える側はそうでもありません。いつにするのか、何をするのか、どの方法にするのか、そもそも今決める必要があるのか。かなり広い範囲から答えを探すことになります。

心理学には「認知負荷(Cognitive Load)」という言葉があります。簡単に言えば、頭の中で情報を処理するときにかかる負担のことです。

例えば、突然「来月の予定、どうしますか?」と聞かれるより、「土曜日と日曜日なら、どちらがいいですか?」と聞かれた方が答えやすい。後者は考える範囲があらかじめ整理されているからです。

営業でも、「今後どうされますか?」より、「まず資料を見るのと、一度説明を聞くのでは、どちらがよさそうですか?」の方が答えやすい場面があります。

「どちらがいいですか?」という質問には、相手を動かすことよりも、相手が考えやすい範囲をつくる意味があると考えると、少し見え方が変わります。

## 人は「何を選ぶか」だけで決めているわけではない

もう一つ、関連する行動科学の考え方に「選択アーキテクチャ(Choice Architecture)」があります。日本語にすれば「選択の設計」です。

私たちは自分の意思で物事を選んでいるように思いますが、実際の意思決定は、何を選択肢として見せられたか、どんな順番で提示されたか、どう比較できるようになっているか、といった「選択肢の置かれ方」にも影響を受けます。

例えばレストランのメニューで、「人気No.1」や「店長おすすめ」と書かれている料理が気になった経験がある人もいるでしょう。料理そのものが変わったわけではありませんが、提示のされ方によって選ぶときの見え方は変わります。

この「選択肢をどう置くか」という考え方は、営業の質問にも通じるところがあります。

「こちらのサービスはいかがでしょうか?」と聞けば、相手が考えるのは「契約するか、しないか」です。一方、「まず小さく始めるAプランと、最初から全社で使うBプランなら、御社にはどちらが合いそうですか?」と聞けば、「AとBのどちらが自社に合うか」を考えます。

質問が変わると、相手が考えるテーマも変わるわけです。

## 「デフォルト効果」を知ると、選択の面白さがもう少し見えてくる

選択アーキテクチャを知るうえで、よく知られているものに「デフォルト効果(Default Effect)」があります。

例えば、Webサービスの設定画面で、ある項目に最初からチェックが入っている場合と、自分でチェックを入れる必要がある場合では、最終的にその項目を選ぶ割合が変わることがあります。

人は毎回すべての選択肢をゼロから比較して決めているわけではなく、「最初からどう設定されているか」の影響も受ける。これがデフォルト効果です。

もちろん、「どちらがいいですか?」という質問そのものがデフォルト効果というわけではありません。

ここで知っておくと面白いのは、人の意思決定は選択肢の中身だけで決まるわけではなく、「どのような状態で選択肢が提示されたか」にも左右されることがある、という点です。

営業でも、「何を聞くか」と同じくらい、「どう聞くか」が相手の考えやすさに関係しているのかもしれません。

## 商談の日程調整でも、同じことが起きている

身近なところでは、次回の日程を決める場面にもあります。

「またお打ち合わせさせていただけますか?」なら、相手は「打ち合わせをするか、しないか」を考えます。「来週と再来週なら、どちらがご都合よさそうですか?」なら、考えるのは「来週か、再来週か」です。

資料についても、「資料をお送りしましょうか?」と聞くのと、「事例集と料金資料なら、どちらからご覧になりたいですか?」と聞くのでは、相手が考える内容が変わります。

ただし、ここで「二択にすれば断られにくくなる」と考えてしまうと、少し話が違ってきます。

まだ契約する意思を示していない相手に、いきなり「AプランとBプラン、どちらにしますか?」と迫れば、選びやすくしているのではなく、単に選択を迫っているだけです。

選択肢を提示する目的を「NOと言わせないこと」にするのか、「相手が自分の考えを整理しやすくすること」にするのか。同じ二択でも、ずいぶん違います。

## クロージングより、ヒアリングで使うと面白い?

この考え方は、契約を迫る場面より、むしろヒアリングで使う方が面白いかもしれません。

例えば、お客様から「最近、営業がうまくいっていなくて」と言われたとします。

「何が問題ですか?」と聞くこともできます。ただ、かなり大きな質問なので、相手もどこから話せばいいのか迷うかもしれません。

そこで、「新しい商談が増えないことと、商談はあるけれど受注につながらないことなら、どちらの方が近いですか?」と聞いてみる。

「それなら受注の方ですね」と返ってきたら、もう少し具体的な話に入れます。

もちろん、本当の原因がその二つとは限りません。「それとも、別のところにありそうですか?」と加えておけば、二択で決めつけることもありません。

選択肢を「答え」として提示するのではなく、相手が自分の状況を考えるための「補助線」として使う。そんな使い方です。

## 「どちらですか?」の次の質問が、意外と大切

例えば、「資料とオンライン説明なら、どちらがよさそうですか?」と聞いて、「まず資料ですね」と返ってきたとします。

そこで「わかりました」で終わらず、「ちなみに、最初に何を確認したいですか?」と聞いてみる。

すると、「料金感ですね」「他社の導入事例を見たいです」「社内で説明できる材料が欲しくて」など、その選択をした理由が見えてくることがあります。

「どちらがいいですか?」で選んでもらうこと自体が目的ではなく、その理由を聞くことで相手の考えがもう少し見えてくる。

そう考えると、これはクロージングのテクニックというより、ヒアリングの入り口としても使えそうです。

## 心理学を少し知ると、いつもの質問が違って見える

今回登場した「認知負荷」は、情報を考えたり処理したりするときに頭にかかる負担。「選択アーキテクチャ」は、選択肢の提示方法によって意思決定の環境をつくるという考え方。そして「デフォルト効果」は、最初から設定されている状態が選択に影響することがあるという現象です。

どれも、「二択にすれば営業がうまくいく」という話ではありません。

むしろ面白いのは、人は質問された内容だけを考えているわけではないということです。質問の大きさや、用意された選択肢、提示のされ方によっても、考えやすさは変わります。

いつもの商談で使っている「どうしますか?」を、一度だけ「AとBなら、どちらが近いですか?」に変えてみる。そして答えが返ってきたら、「なぜ、そちらなんですか?」と聞いてみる。

心理学を少し知っていると、そんな何気ない質問にも、相手の考えを知るためのヒントが隠れていることに気づきます。

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